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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)4763号 判決 1968年11月30日

原告

井口但

ほか二名

被告

岸武雄

ほか二名

主文

被告は各自原告井口但に対し三〇万六二〇四円、原告富松忠征に対し五万八一四〇円、原告小島正勝に対し三万円および右各金員に対する昭和四二年三月一六日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、第一次的請求の趣旨

(一)  被告らは各自原告井口但に対し三二万四九〇〇円、原告富松忠征に対し七万八一〇〇円、原告小島正勝に対し七万円および右各金員に対する昭和四二年三月一六日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二、第二次的請求の趣旨

(一)  被告らは、各自原告井口但に対し二六万九九〇〇円、原告富松忠征に対し七万八一〇〇円、被告岸武雄は、原告井口但に対し五万五〇〇〇円、原告小島正勝に対し七万円および右各金員に対する昭和四二年三月一六日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

(一)  原告富松は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

なお、この際原告井口はその所有に属する以下の被告車を損壊された。

(一)  発生時 昭和四二年三月一六日午後三時頃

(二)  発生地 東京都調布市仙川町二丁目五番地先路上

(三)  加害車 大型特殊自動車

運転者 被告 岸

(四)  被害車 普通貨物自動車

運転者 原告 富松

被害者 原告 富松、同井口

(五)  態様 新宿方面から立川方面に向けて加害車(以下、被告車という。)と被害車(以下、原告車という。)とが併進していたところ、被告車が原告車の前方に割り込んできたため、被告車の後部と原告車の右前部とが接触したものである。

(六)  結果 原告富松は全治三〇日以上を要する傷害を受けた。

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一)  被告岸は事故発生につき、安全運転義務違反があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

(二)  被告清水は、被告会社の代表取締役として被告会社に代り現実に被告岸の業務執行を監督する立場にあつたものだから、民法七一五条二項による責任。

(三)  被告会社は人損については、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(四)  被告会社は物損については、被告岸を使用し、同人が同被告の業務を執行中、前記過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任。

三、被告岸は、被告車の先行車両を運転していた原告小島に対し、本件事故発生直後、同所において、所携の鉄パイプで同原告の腕部、足部を殴打し、同人に左上膊ならびに左膝内側挫傷の傷害を負わせたものである。従つて被告岸は不法行為者として、民法第七〇九条の責任、被告清水は民法第七一五条第二項にする責任、被告会社は民法第七一五条第一項による責任がある。

四、(損害)

(一)  原告井口の損害

(1) 請負代金 五万円

原告井口は、残土処理等の請負を業とするものであるところ、本件事故当時原告富松および同小島を使用して、会津興業株式会社から宅地の埋立工事を請負つていたが、本件事故により、右作業が不能となり、請負代金五万円の得べかりし利益を失つたものである。

(2) 信用喪失 一〇万円

原告井口は、本件事故により、その他の残土処理等の工期が遅延し、そのため、信用を失墜したが、その額は一〇万円が相当である。

(3) 休業補償 一〇万八五〇〇円

原告井口は、その所有する普通貨物自動車で一台につき一日三五〇〇円の利益をあげていたが、本件事故により、原告富松が二〇日間、同小島が一一日間休業したため、合計一〇万八五〇〇円の得べかりし利益を失つたものである。

(4) 修理代 一万九九〇〇円

(5) 被用者に支払つた給料 四万六五〇〇円

原告井口は、同富松および同小島が本件事故により前記のとおり休業したにもかかわらず、同原告らの給料として一日一五〇〇円の割合により、合計四万六五〇〇円を支払い、同額の損害を受けたものである。

(6) 弁護士費用

原告井口は被告らがその任意の弁済に応じないので弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、手数料として五万円を支払つたほか、成功報酬として認容全額の一割を支払うことを約した。

(二)  原告富松の損害

(1) 治療費等雑費 八一四〇円

(2) 慰藉料 七万円

(三)  原告小島の損害

慰藉料 七万円

五、(結論)

よつて、第一次的請求として被告らに対し、原告井口は内金三二万四、九〇〇円、原告富松に対し七万八一〇〇円、原告小島に対し七万円およびこれに対する事故発生の日である昭和四二年三月一六日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第二次的請求として、被告らに対し、原告井口は休業補償および被用者に支払つた給料のうち、それぞれ原告小島の部分を除く内金二六万九九〇〇円、原告富松に対し七万八一〇〇円、被告岸に対し、原告井口は五万五五〇〇円、原告小島に対し七万円およびこれに対する事故発生の日である昭和四二年三月一六日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四、請求原因に対する答弁

第一項中、(一)ないし(四)は認める。(五)は否認する。(六)は知らない。

第二項中、被告会社が被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたこと、被告岸を使用していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三項は否認する。

第四項は争う。

第五、証拠関係 〔略〕

理由

一、昭和四二年三月一六日午後三時頃東京都調布市仙川町二丁目五番地先路上において、被告岸の運転する大型特殊自動車(以下、被告車という。)と原告富松の運転する普通貨物自動車(以下、原告車という。)とが接触したことは当事者間に争いがない。〔証拠略〕を総合すると、被告岸の運転する被告車と原告富松の運転する原告車および原告富松と共に原告井口に運転手として雇われていた原告小島の運転する普通貨物自動車とが甲州街道を新宿方面から府中方面に向けて進行していたところ、互に、その進路を妨害するなどの行為が行われたこと、そして、本件事故現場にさしかかつた際、被告車が原告車の右側を併進する状態となつたところ、被告岸は左に進路を変更するにあたり、その合図をし、徐行しつつ前後左右の安全を確認して運転すべき注意義務があるのに、原告車との安全を確認することなく、原告車の前方に割り込んできたため、被告車の後部を原告車の右前部に接触させたこと、その結果原告富松は右胸部挫傷の傷害を受け、原告車を損壊されたことを認めることができ、右認定に反する被告岸本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。従つて、被告岸は、本件事故により原告富松および同井口らに生じた損害を賠償する責任がある。

〔証拠略〕によれば、被告清水が資本金二〇〇万円の被告会社の代表取締役であつたことを認めることができる。そうだとすれば、特段の事情が認められない本件においては、被告清水は被告会社の代表者として、具体的に事業の監督をなしている者であると窺われるから、民法第七一五条第二項による責任を負うものということができる。

被告会社が被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであること、被告岸が被告会社に運転手として雇われていた者であることは当事者間に争いがない。そして、〔証拠略〕によれば、被告会社は、大型特殊自動車による機械その他の重量物の運搬を業とする会社であるところ、本件事故発生当時、被告岸は、被告車により機械を運搬するためにこれをとりに行く途上であつたことを認めることができる。そうだとすれば、本件事故は、被告会社の事業の執行につき惹起したものというべきである。従つて、被告会社は、原告井口および同富松の蒙つた損害のうち、人損については、自賠法第三条により物損については、民法第七一五条第一項によりそれぞれ賠償する責任があるということができる。

二、〔証拠略〕によれば、本件事故現場に差しかかつた際、原告小島は、普通貨物自動車を運転し、被告車に先行していたこと、本件事故発生直後、前記原告富松の合図で、停車したところ、被告岸は、被告車から降りて、原告小島が同富松と共に被告車の進路を妨害したとして、同所において、所携の鉄パイプで原告小島の腕部、足部を殴打し、同原告に左上膊並びに左膝内側挫傷の傷害を負わせたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。そうだとすれば被告岸は、民法第七〇九条により、原告小島の損害を賠償する責任があることは明かである。そして、本件事故発生当時、被告岸が被告会社の業務に従事中であつたことは先に認定したとおりであるから、本件事故発生直後、原告小島が被告車の進路を妨害したとして喧嘩となり本件事故現場で同原告を殴つて負傷させた以上、右暴行により同原告の蒙つた損害は、被告会社の被用者である被告岸がその事業の執行につき加えた損害ということができる。従つて被告会社は民法第七一五条第一項により、又前記認定のとおり監督義務者と認められる被告清水は、同条第二項により原告小島の損害を賠償する責任がある。

三、(損害)

(一)  原告井口の損害

(1)  請負代金について

〔証拠略〕によれば、原告井口は、残土処理の請負を業とするものであるところ、本件事故当時、原告富松および同小島を使用して、会津工業株式会社から宅地の埋立工事を請負つていたが、本件事故により、請負代金五万円の支払を受けることができなくなつたことを認めることができる。従つて、原告井口は同額の損害を受けたものということができる。

(2)  信用喪失について

原告井口は、本件事故によりその業務の遂行が遅延し、信用を失つたと主張するが、本件全証拠によるもこれを認めることができない。

(3)  休業補償について

〔証拠略〕によれば、原告井口は、その所有のトラツクで一台につき一日三五〇〇円以上の利益をあげていたこと、本件事故による傷害のため、原告富松が二〇日間、原告小島が一一日間それぞれ休業したことを認めることができる。従つて、原告井口は、本件事故により、合計一〇万八五〇〇円の損害を受けたことになる。

(4)  修理代について

〔証拠略〕によれば、原告井口は本件事故により破損した原告車の修理代として一万九九〇〇円を支払つたことが認められるから、同額の損害を受けたものということができる。

(5)  被用者に支払つた給料について

〔証拠略〕によれば、原告井口は、同富松、同小島が本件事故により前記のとおり休業したにもかかわらず、同原告らの給料として、一日一五〇〇円の割合により、合計四万六五〇〇円を支払つたことが認められるから、特段の事情の認められない本件においては、同額の損害を受けたものということができる。

(6)  弁護士費用について

〔証拠略〕によれば、原告井口は、被告らが本件事故による原告らの損害の支払につき、任意に応じないので、原告代理人にその取立を委任し、手数料等として五万円を支払つたほか、報酬として認容金額の一割を支払うことを約したことが認められるから、合計三万一三〇四円の損害を受けたものということができる。

(二)  原告富松の損害

(1)  治療費等雑費について

〔証拠略〕によれば、原告富松は、前記傷害を治療するため治療費、薬代等として合計八一四〇円を支出したことを認めることができるから、同額の損害を受けたものということができる。

(2)  慰藉料について

原告富松が本件事故により、右胸部挫傷の傷害を受け、二〇日間仕事を休まざるを得なかつたことは先に認定したとおりである。そうだとすれば、慰藉料は五万円を相当とする。

(三)  原告小島の損害

原告小島が左上陣並びに左膝内側挫傷の傷害を受けたこと、一一日間仕事を休まざるを得なかつたことは先に認定したとおりである。そうだとすれば、慰藉料は三万円を相当とする。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、各自、原告井口は三〇万六二〇四円、原告富松は五万八一四〇円、原告小島は三万円および右各金員に対する事故発生の日である昭和四二年三月一六日以降支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言については同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福永政彦)

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